病名と治療
前十字靭帯断裂(anterior cruciate ligament: ACL)とは
前十字靭帯は、膝の関節内にある靭帯です。大腿に対して下腿が前方に移動する動きを制御しています。従って前十字靭帯が損傷すると下腿が前方へずれる事になります。前十字靭帯はバスケットボールやバレーボールのジャンプ着地時に膝を捻った時や、ラグビーやサッカーなどのコンタクトプレー時などに損傷します。その他のスポーツ、外傷でも損傷することがあります。受傷時、自分の膝に「ガクッ」とか「ブチッ」という音を感じる人も少なくありません。また強い痛みのため、その後のプレーを続けることは困難となります。前十字靭帯は関節内部にあるため、断裂部からの出血は関節内に留まり、膝は腫れます。
診察、X線、MRI撮影にて診断します。診察で膝のゆるみを確認できます。また、MRIで断裂、合併損傷を確認します。
半月板損傷などの合併症がない場合は、急性期を過ぎると痛みは軽くなります。程度は異なりますが、不安定性が残ります。自覚症状が残らない場合もありますが、ひどい場合は、日常生活動作でも膝くずれなどの「膝がずれる感じ」や痛みが残ります。
不安定性の程度、年齢、希望するスポーツの種類などにより、治療方法を選べます。しかし、半月板断裂などの合併損傷とあわせて、適切な方針を立てることが大切です。
リハビリによる経過観察
不安定性がなく、スポーツを行わないなど活動性が低い場合は、筋力訓練などのリハビリのみで経過をみることも可能です。不安定性があっても、スポーツの種類によっては復帰可能です。ゴルフ、水泳、サイクリングは、ほとんどの場合復帰可能です。ソフトボール、テニス、ジョギングには軽度の影響があるようです。膝の伸筋、屈筋の筋力訓練の他に、足趾把握訓練など下肢全体のバランス、固有感覚を訓練することが重要です。
不安定性が強い場合や、負担が大きいスポーツ(バスケット、バレーボール、サッカー、体操など)への復帰を望む場合は、より厳密な治療が必要です。放置すると、スポーツ復帰が困難となったり、膝の軟骨がすり減る変形性膝関節症になる確率が上がります。
保護的早期運動療法
不安定性が強い場合、前十字靭帯は癒合しないといわれてきました。すなわち、元々の靭帯はつながらないため、代わりの組織で新しい靭帯を作り直す靭帯再建術が必要があると考えられてきました。しかし、Kyuro装具を利用して適切に膝の運動を制御し、早期に運動療法を行うことにより、6~7割程の症例では靭帯再建術を行わずとも治癒します。早期に適応を判断してリハビリを開始することが必要であり、関節鏡にて断裂形態を確認します。適切なリハビリテーションを覚えて、自主的に続けていただくことも重要です。侵襲が小さく、入院期間も短いという利点があります。レクリエーション程度のスポーツ復帰を目指す中高年者には大変いい方法です。
靭帯再建術
早期に競技スポーツに復帰することを望む場合は、関節鏡視下に靭帯再建術を施行します。再建術を行う場合は、受傷直後に行うと関節が拘縮することが多いため、受傷後1ヶ月ほど待ち、動きがよくなってから行います。